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陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

優しく抱きしめて 51

駅を出て直ぐのベーカリーがやっているカフェに入った。

2人は、向かい合って窓際の席に座った。

「何かお腹空いちゃったな~。パンも食べようかな。」

「私も。アンドーナッツにしようかしら。」

「村沢さんは、あんまりダイエットとかしなくてすみそうな体型ですよね。」

「いきなりなんですか~。アンドーナッツだから?」

「いいえ、別にそう言う訳じゃなくて、失言でした~。」

「僕もアンドーナッツいっちゃいましょう。」

2人は、アンドーナッツを頬張りながらお互いの仕事について話した。

「江口さんって、外資系コンサルティング会社にお勤めなんですか。大変でしょう?」

「確かにね。やりがいもありますよ。村沢さんだって、金融系のシンクタンクなんて、大変でしょう?」

「そうですね。大変かもしれないけれど、やっぱり、好きで入った所ですから。イヤだなんて思ったことなかったです。」

「過去形なんですか?」

「やっと大きなプロジェクトに参加できたのに、病気になって、外されちゃったんです。」

「そうだったんですか。聞いちゃってもいいのかな?大きな病気?」

「・・・・。」

「あ、失礼。まだ、会って、ちゃんと話すの初めてなのに、立ち入ったこと聞いちゃって。」

「いいえ、2度も見ず知らずの私を助けていただいた人ですもの。パニック障害って、ご存じですか?」

「パニック障害?ああ、有名人でなった人がいるって聞いたことあります。確か、そう、急に呼吸困難みたいな発作を起こす病気ですよね。あ、あの時。」

「そうなんです。あの時、発作を起こしていたんです。私も、まだ、あの時、自分がパニック障害だなんて知らなかったんですけれど。」

「それで、電車に乗れなくなったんですね。二回目に会った時も、発作を起こしていたんですね。」

「あの時は、初めての発作よりも軽かったですけれど。やっぱり、電車には乗れなくて。医師から、体調がいい時に休日の空いている電車から乗ってみたらどうかって言われて、それで今日、乗ってみたんです。」

「そうだったんですか。それにしても、こうしてまた会うなんて。」

「本当。この間、手帳を返していただいた時、お名前と連絡先を聞いていなかったので、お礼もちゃんと言えなくて、すみませんでした。」

「いいえ。こうして、また会えたのは、お礼のかわりかも。」

「よかったです。会えて、お礼が言えて。」

「僕でよかったら、電車に乗る時、ボディガードしますよ。」

「本当ですか~?」

美奈は、江口のボディガードという言葉に反応してしまった。

「どうかしましたか?」

「いいえ。」

「下心はありませんから。念のため。」

「ごめんなさい。そうじゃないんです。」

「これ、僕の携帯番号。それと、メールアド。」

「じゃあ、こちらからかけてみますね。」

「OK!いつでも、呼び出して下さい。暇人ですから。時々、休出ありますけど。そろそろ、いきましょうか。長く、引き留めちゃって。」

「ありがとうございます。」

美奈と江口は、カフェを出て別れた。

江口は、駅の方に美奈は、家の方に向かって歩き出した。

その夜、美奈は疲れが出て、少し、軽い発作を起こした。

直ぐに頓服を飲んで休んだ。

ベッドに入って、天上を見ながら、江口のことを思い出していた。

『いい人かも。』

美奈は、いつの間にか眠りに入っていった。


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